2017年10月14日(土)-15日(日)
秋が深まる頃、
愛媛県宇和島市の、パールが産まれる海に行って来ました。
宇和島は、四国の西端。
山に囲まれているため「宇和海」に面して
リアス式の海岸が広がり、小さな島々もあります。
パール(真珠・アコヤ貝)に加え、
ハマチ、マダイなど、養殖水産業が盛んな海です。
拡大図
海岸ギザギザです。
まず私、関東平野のどまんなか・海といえばなめらかな九十九里浜、
という千葉県出身のため
このリアス式の海岸というものを
基本的に見慣れなく…
地図を見るだけでドキドキします。
さて、その愛媛県は
日本国内で産出される(真珠)パールのうち、
シェア45%を誇る「最大産地」だそう。
ちなみに伊勢を含む三重県は20%です。
(私も産地でお話を伺うまでは
「真珠といえば、伊勢」のイメージがかなり強くありました。
伊勢、ならびにミキモトが、長年かけて培って来た
ブランディングのたまものなのでしょう)
今回の旅では、この真珠の最大産地、愛媛県の中で
最も古く、技術開発でもトップクラスの養殖場を
見学させていただきました。
静かな海。
松山市から車で向かい、宇和島に到着。
桟橋から、いよいよ船に乗って出発!
揺れる船と、波のしぶきにドキドキ。
まず着いたのは、「核(かく)入れ」の作業場です。
これが、パールを育ててくれる、ベニアコヤ貝。
麻酔にかけられた、
うら若きベニアコヤ会の稚貝(ちがい)たち。
ぶくぶく吐き出される泡から
息をしていることがわかります。
まだ若いベニアコヤ貝が眠っているうちに、
ベテランの職人さんが作業していきます。
器具を使ってスッと貝を上下に開き、
柔らかくみずみずしい身を、メスでそっと切って、
ピンセットで、真珠の「核」となる
貝殻の切片を素早く入れて行きます。
核入れの動画はこちら
まるで外科手術のような、核入れ作業でした。
若い時に眠らされて、マイクロチップ(核)を身体の中に
知らない間に埋め込まれた貝ちゃん…!!
なんて、ちょっとサスペンス映画のようなことを
イメージしてしまいました。
ベテランさんの無駄のないナイフさばきのおかげで
傷は浅いため、
自然治癒力で、ちゃんとくっつくんですね。
生命の不思議です。
再び閉じられたこの貝は、
海の中に沈められ、養殖されます。
再び船に乗って、今度は、
養殖場となっている海の上へ。
約2年間、海の中にいた貝を引き上げます。
再び閉じられた貝が、
温暖で優しく、ときに激しい宇和海の中で
波に揉まれて約2年間。
育ったパール、誕生の瞬間です!
動画をご覧ください。
思わず誰かが「ごめんね〜、貝さん!」って言ってますね。
本当にそんな気持ちになりました。
貝さん、身体を張って、パールを育ててくれてありがとう。
なんて美しいんでしょう…!!!
生まれたての、青い大きなパールです。
海の水に濡れたパールは、
海と、空と、貝と、命と一体になっていて
自然のエネルギーの結晶のようでした。
決して早送りできない「時間」、
そして「貝と海の生命力」が、美しいパールをはぐくむ。
パールは、
工業製品ではなく、金属でもなく、
プラスチックなんかでも決してなく
生命の営みから生み出された「奇跡」なんだ!
パールのひと粒ごとが「生きて」いるんだ!
身体の内側から震えるような感動を覚えました。
私たち全員、船の上で、ちょっと泣きました。
「はいどうぞ! 貝柱です。うまいよ」
と、養殖場の社長さん。
パールの貝柱は、
涙と、海水と、磯の香りが一体になったような
味がしました。
食感はツルツル、ふわふわで、みずみずしく
そして芯がコリコリとしていて美味しい。
今、目の前で上がった貝をいただく
命を食べるという
強烈な経験をさせていただきました。
貝にも命がある。
こんなこと、私は長い都会暮らしで
すっかり忘れていました。
パールを身につけることは、海の命、
ひいては大地の命を身につけることなんだ。
装飾品に命をいただくって、
なんて贅沢なことなんだろう。
私は、少し湿った海の風の中で、
東京の乾燥した部屋に、びろうどのケースに入って
鎮座している、
パールのネックレスとピアスを想いました。
あれは、一体何粒の「命」が連なった
ネックレスだったろうか。
なんだか、今までの価値観が
ガラリと変わるような体験になりました。
事務所に戻って、養殖場の社長さんに
パールの歴史や、開発秘話を聞かせていただき。
また、出荷前のパールを
たくさん見せていただきました。
とてもね、いろんな色や形があるんですよ。パールって。
生き物が育んだものだから、
さまざまな個性的な形、色が生まれて当然です。
それが嬉しい。それが素敵。
でも、なんで日本の多くのジュエリーショップでは、
真っ白い(または少しピンクがかった)
まん丸のものしか売っていないんだろう?
日本では、ほんのりピンクで、まん丸のものが
「価値が高い」とされているからなんですね。
私はファッション雑誌の仕事もしていたので、
仕事上、一般の女性よりは数多くのジュエリーを
見ていると思います。
スーパーハイジュエリーブランドや、
百貨店の棚の奥にあり表には出てこないような
超高級商材も、かなりたくさん拝見したことがあります。
でも、ここにあるパールは
「あまり見たことがないものだ」と思いました。
東京の売り場や、
ファッション・宝飾品メーカーのプレスルーム
(マスコミ関係者が撮影用に商品をリースする場所)では
見かけないものばかりなのです。
右2本は「2回の冬を越えた貝」から産まれたパール。
厚みがあり、美しい虹色が見られます。
一番左は、1回だけ冬を越したパール。
これは手持ちのiPhoneで、自然光で
パチリと撮っただけ写真なのですが
てりの深み、濃さが全く違うのがお分りいただけますか。
2つの冬を海の中で超えたパールは、
時間とともに、色々な形に育ちます。
日本では、「真円」の形にうまく育ったものだけが
高価格とされていて、
それ以外のものは安値で扱われてしまます。
でも、1年間の急速成長で
薄ーくフツーにまっすぐ育ったやつよりは
時間をかけて、多少デコボコしたり、クセが出て
味があるやつの方が
圧倒的に面白いんじゃないかな?
人間の話じゃないですよ。パールの話です。
あと、パールは自然から生まれたものだから、
自然光で見るのが
一番、美しいなと思いました。
宝飾品店では、必ず、強いスポットライトを当てて
ピカッと光らせていますよね。
パールの美しさって、そうじゃない。
「ピカッ」じゃない。
パールは、こんな、日本の空によくある
薄曇りの日の太陽光で見るのが
一番美しいんじゃないか。
谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」の世界。
そんな風に思いました。
厚みのあるバロックパールで作られたリングも素敵。
40代の私は、そろそろこういうのが
似合いそうです。
今回の旅をアテンドしてくれたのは、
東京で20年にわたり活躍する
宝石商の宮澤理恵さん。
宝石商の手。美しいですね。
少し日が暮れて来た事務所の中で
パールが静かにかすかに照っています。
理恵さんが
「菜穂子さん、宇和島の海でパールが産まれるところを
見ませんか?」
と言ってくれたご縁から、
こんな貴重な体験をすることができました。
ふと、事務所の中で
商品が掲載されたという雑誌群を発見!
私の古巣である小学館の、
最高峰ラグジュアリー雑誌「Precious(プレシャス)」。
私自身も思い入れの深いこの雑誌の創刊号で、
私にラグジュアリーブランドや、ジュエリーとの付き合い方を
教えてくれた
敬愛する先輩編集者が、
この養殖場のパール製品を紹介していました。
小雪さんの表紙。
執筆はファッションエディターの
梶山美季さん。
私を始め、小学館の編集者や営業パーソンたちに
たくさんの「ラグジュアリー」と「プレシャス」を
教えてくれた彼女は、
2012年に、若くしてお亡くなりになりました。
私物で、よく重みのある
ロングパールをつけていた梶山さん。
どうやら、偶然にも、この海のパールだったようです。
不思議なご縁を感じました。
今回来た3人は、
それぞれ、理恵さんに見立てていただきながら
オリジナルのパールネックレスを作りました。
金具や長さもベストバランスを選んで、
発注が完了。
自分だけのフルオーダー。
思い入れのあるネックレスができました。
最高の旅の仲間にも感謝。
この日の夜は、
宇和島の「木屋旅館」へ。
旅籠(はたご)として設立してから
約300年の古い日本家屋を
現代風にリノベーションした、素敵なお宿です。
キッチリした和風旅館なのですが…
水まわりなどは完璧に現代です。最高です。
お風呂は大変ミステリアス。
和に、ほのかな洋のエッセンスが絶妙の書斎。
宇和島関連の書籍が多数。
極早生(ごくわせ)みかんは、
旅館の近くの居酒屋でみんなでごはんを食べていたら
おばちゃんがくれたもの。
近所の酒屋さんで購入した
ワインと栗焼酎を飲みながら、
初めての宇和島での夜が更けて行きました。
木屋旅館のホームページはこちら:
旅の追記。
1週間後、宇和島で注文した3人のネックレスが
でき上がって来ました。
三者三様。
私のは一番左のもの。
グレーがかった大粒パールのロングネックレスです。
ちょうど撮影の機会があったので、
お気に入りのブラウスに、
できたてのパールをコーディネートしてみました。
写真は、2018年からの公式プロフィールとして
使用する予定です。
Photo
Uwajima/ Miki Ikeda, RIe Miyazawa, Yasue Ohno, Naoko Moriyama
Tokyo/ Testuo Koike, Produced by Terumi Ishiyama ( Anna Photo ) ,
Styling advice by Taeko Nagatomo
★2018/03/02 追記
虹色に輝いているところが、ベニアコヤカイの真珠層。貝の身の「外套膜(がいとうまく)」から分泌された炭酸カルシウムが、微粒子結晶の薄い膜状になって硬化したものだそうです。生命の不思議だなあ。 pic.twitter.com/joUkzt8wM7
— 守山菜穂子/ブランドコンサルタント (@nao_moriyama) 2017年12月22日
ベニアコヤカイの真珠層。動画だときらめきが伝わりやすい。
— 守山菜穂子/ブランドコンサルタント (@nao_moriyama) 2017年12月22日
ガラスや、タイルや、プラスチックの人工パールなど、「パール風」のものっていまたくさんあるけど、それは人類が貝の輝きを大量生産したくて製造してきた「技術の歴史」。
そもそも生き物がこれを作っているというすごさを伝えたいなあ。 pic.twitter.com/93o2zU4Iz6
2年半ぶりにプロフィール画像を変更しました!
— 守山菜穂子/ブランドコンサルタント (@nao_moriyama) 2017年12月25日
フォトグラファー小池哲夫さん、撮影スタジオは恵比寿のアンナフォトさん。
お気に入りのネイビーのシルクブラウス。合わせたパールのネックレスは、愛媛県宇和島産の松下真珠養殖場で購入したものです。
メリー・クリスマス!
#新しいプロフィール画像 pic.twitter.com/7Snd1yAC0b
汐留のコンラッド東京にて。宝石商の友人が開催しているジュエリーの展示会に行ってきました。スイートルームからの眺めと、個性的なジュエリーたちにアガる↑↑↑ pic.twitter.com/lOYg4JNSny
— 守山菜穂子/ブランドコンサルタント (@nao_moriyama) 2018年1月28日
こちらは、愛媛県宇和島産のパールネックレス。ブルー、グレー系統の色のバリエーションが美しい。西日本のあこや貝の真珠って、邪馬台国の卑弥呼の時代から日本で珍重されていた宝玉だって知ってました?
— 守山菜穂子/ブランドコンサルタント (@nao_moriyama) 2018年1月28日
宇和島パールについては前にブログにも書きました↓https://t.co/yiLExHGuBR pic.twitter.com/UeJMhKGSGj
今日の日中、春のような明るい日差しに、うちにいる宇和島パールさんがあまりにも綺麗に見えたので、思わず物撮り。
— 守山菜穂子/ブランドコンサルタント (@nao_moriyama) 2018年2月27日
愛媛県宇和島の海で大切に育てられた、厚みのあるバロックパールです。真珠の層が厚いから、七色に光る。「てり」がすごいんです。 pic.twitter.com/UY13Em5uBA
本日の宇和島パール、バロックのブルーグレーさん、お気に入り。 pic.twitter.com/Ahcs9MD8mu
— 守山菜穂子/ブランドコンサルタント (@nao_moriyama) 2018年2月27日
本日の宇和島パール。ネックレスをネジネジすると、バロックのデコボコがランダムに輝いて本当に美しいの。オブジェのように遊んでしまった。 pic.twitter.com/Qd1UtlJnU4
— 守山菜穂子/ブランドコンサルタント (@nao_moriyama) 2018年2月27日
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